譯者のまえがき
いま物理學を專門にやっている人で Dirac のこの敎科書のお世話にならなかった人はないであろうほどこの本は名著である.敎科書というものは普通はあまり獨創的であってはいけないといわれる.著者の個性があまり强く出すぎては一般性がなくなるおそれがあるからである.ところがこの Dirac の本は Dirac の人そのものであるといえるほど獨自なものでありながら,量子力學を勉强しようとする學生に,十分かたよらない土臺を與えるだけの 一般性をもっている,理想的の敎科書といえる.
故仁科先生の御發議で,この名敎科書をひろくわが國の讀者に役立てたい ために,先生と朝永振ー郞・小林稔・玉木英彥の共同で,1936年,この本の第2版の譯を出した.それは多くの讀者に歡迎されたことと,われわれは信じている. Dirac はその後この本を書き改め,第3版が新たにあらわれたので,早速われわれは新版の譯にとりかかり,ここに出來上ったのがこれである.どうかこの譯書が第2版のそれと同じように讀者にむかえられるようにと,われわれ譯者は願っている.
| 1954 年 10 月 30 日 |
| 朝永振一郞 |
| 玉木 英彥 |
| 木庭 二郞 |
| 大塚益比古 |