2016年5月4日水曜日

15.δ函數

15.δ函數

 §10で調べた所によって,ある種の無限大を含む量を考えることが必要になった.これらの無限大を取り扱うために詳しい記號がほしいので,パラメーターに關係して次の條件を滿足する量を考えることにする:

のありさまを思い浮べるには,實變數の函數で,原點 を圍む小さな領域,たとえば長さの領域の內部のほかでは零であり,この領域の內部では非常に大きい値をとり,この領域について積分すればとなるようなものを考えればよい.この領域の內部で函數が正確にどんな形をしているかは問題にならない.ただし不必要に激しい變化はしないものとする.(たとえば函數はいつでもの程度であるものとする.)そうすればの極限ではこの函數はへ移ってゆくことになる.

 函數についての普通の數學の定義に從えば,はの函數ではない.普通の數學の定義では函數というものはその領域內の點に對してそれぞれ一定の値をもつことが要求されるからである.はなにかもっと一般的なものであるから,これが普通の定義による函數とは異なるものであることをはっきり示すために,‘廣い意味での函數’とよぶことにしよう.こういうわけでは,普通の函數のように一般に數學解析で用いられる量ではなくて,を用いても明らかに內部に矛盾が起り得ないような,簡單な型の式に限って用いることが必要である.

 の最もたいせつな性質を示すよい例は次の方程式である:

ここではの連續函數であれば何でもよい.この方程式が成りたっていることは,前に考えておいたのありさまからたやすくわかる.(3)の左邊での値が關係してくるのは原點に非常に近い所のほかにはあり得ないから,の代わりにその原點での値とおいてもかんじんな點には誤りを生じない.すると方程式(3)は方程式(2)の最初の式から直ちに得られる.(3)の原點を變えると,

という公式を導きだすことができる.ただしはかってな實數である.つまりの函數にを掛けて全體にわたって積分するという手續きは,の所にを代入するという手績きと同じことである.この一般的な結果はの函數がただの數ではなくて,を變數とするベクトルあるいは1次演算子であっても成りたっている.

 (3)と(4)との積分の領域をからまでとする必要はなく,問題の點つまり函數が零とならない點を圍む領域であればよい.これから先こういう方程式では普通は積分の限界を省き,積分の領域は適當にとるものと了解しておく.

 方程式(3)および(4)によれば,廣い意味での函數はそれ自身としてははっきり定義された値を持たないけれども,積分される函數の中に因子として現われるときにその積分ははっきりした値をもつことがわかる.量子論で廣い意味での函數が現われるときはいつでもけっきょくは何か積分される函數の中で用いられるものとなっている.それゆえ理論を書き改めて,廣い意味での函數は始めから終りまで積分される函數の中にだけしか現われないような形とすることも可能なはずである.そうすれば廣い意味での函數を全然消去してしまうこともできることになる.從って廣い意味での函數を用いたからとて,理論の嚴密さが少しでも失われているわけではなく,それはただ便利な記號であって,これを用いればある種の關係を簡單に表わすことができるということにすぎない.それらの關係は必要があれば廣い意味での函數を含まない形に書き改めることもできるが,そうするとどうしても書き方がめんどうになって議論がわかりにくくなりがちである.

 函數を定義するもう一つのやり方は

で與えられる函數の微係數とすることである.これが前の定義と同じものになるということを確かめるには(3)の左邊のの所へを代入して部分積分をすればよい.すると,ととを二つの正の數として,

となることがわかるが,これは(3)と一致している.函數は不連續函數を微分するといつでも現われるものである.

 函數について基礎的な方程式をたくさん書き下すことができる.これらの方程式は要するに函數を含む代數關係式を取り扱うための規則である.これらの方程式の意味は,どの式でもその左邊と右邊とが,積分される函數の中の因子となるとき同等な結果を與えるということである.

 そういう方程式の例としては次のものがある:

方程式(6)はがその變數の偶函數であることを述べたものにすぎず,とりたてていうほどのこともない.(7)を確かめるにはのかってな連續函數をとってみればよい.すると(3)から

從っては積分される函數の中の因子としては零と同等である.それが(7)の意味にほかならない.(8)と(9)とはこれと似たようなやさしい議論で確かめられる.(10)を確かめるにはのかってな連續函數をとる.すると

こうして(10)の兩邊は,を積分變數として積分される函數の中の因子となるときには同等である.同じやり方で(10)の兩邊がを積分變數として積分される函數の中の因子となるときも同等であることが示される.從って方程式(10)はこれらの見方のどちらからでも正しいといえるのである.方程式(11)も,(4)の助けをかりると,二つの見方から正しいことがたやすく明らかになる.

 方程式(10)はとして(4)を應用しても得られる.廣い意味での函數をあたかも普通の連續函數であるかのようにして用いても間違った結果にならないことがよくあるが,これもそのよい例である.

 方程式(7)の示すように,ある方程式の兩邊を,零という値もとれる變數で割るときには,いつでも一方の邊にの任意の倍數をつけ加えておく必要がある.たとえば

という方程式から考えて

と結論することはできず,を未知の數として

ということだけしか結論できないのである.

 函數を用いた議論のよい例としての微分を考えてみよう.普通の公式

は,の近くではくわしく調べてみる必要がある.逆數函數がの近くで(廣い意味での函數として)はっきりと定義されているためには,このほかにさらに條件をつけなければならない.たとえばからまで積分すると零になるといったような條件である.この條件を餘分につけたとすると,(14)の右邊をからまで積分すれば零となるが,左邊を同じく積分したものはとなる.從って(14)は正しい方程式ではなくなる.これを改めるには,が主値をとるときにの負の値に對しては純虛數の項を含むことを思い起す必要がある.がという値を通りすぎるときにこの純虛數の項は不連續的に消えてしまう.この純虛數の項の微分はという結果を與えるので,(14)は

と直す必要がある.(15)に現われた逆數函數と函數との特別な組み合わせは,衝突の過程の量子論で重要な役割を演ずる(§50を見よ).