2017年5月24日水曜日

16.基礎ベクトルのいろいろな性質

16.基礎ベクトルのいろいろな性質

 さて 函數という書き表わし方を用いて,表示の理論をさらに續けてゆくことができる.最初に,交換するオブザーバブルの完全な組が一つのオブザーバブルだけで形づくられているものと想像しよう.このための條件は のどの固有値 に屬する固有狀態もただ一つしかないということである.そこで,基礎ベクトルが の固有ベクトルとなっており,從って と書かれるような,直交する表示を作りあげてみよう.
  の固有値がとびとびである場合には基礎ベクトルは規格化できるので,このときには

が得られる.これらの方程式を一つの方程式にまとめて,

とすることができる.ここで二つの添え字を持つ 記號は,これから先もしばしば用いられるものであるが,次の意味である:
 
  の固有値が連續している場合には基礎ベクトルを規格化することはできない.いま を固定し を變化させて という量を考えると,§10の(29)の式に關連して述べたことからわかるように,この量は に對しては零であり,またこれを について積分したとき積分の領域が を含めばその結果は有限になる.この有限な量をたとえば としよう.
從って

§10の(30)からは正の數である.この數は が變われば變わってもよいから あるいは簡單のために と書くのがよかろう.こうして

が得られる.あるいはもう一つの表わし方としては

でもよい.ここで は を略したものである.(18)と(19)との右邊は(11)を考えに入れれば等しくなる.
 つぎにまた別の表示に移ろう.こんどの表示の基礎ベクトルも の固有ベクトルであるが,ただし新しい基礎ベクトルは前の基礎ベクトルにただの數を掛けたものになっているとする.新しい基礎ベクトルを前の基礎べクトルと區別するために という目印をつけ加えて とよぶことにすると,

が得られる.ここで は を略したものであって によって變わる數である.(18)の助けをかりると

が得られるが,これは(11)により

と書ける.が正であるからの絕對値がになるように選ぶことは可能である.そこでをそのように選んで

が成りたつようにする.これで新しい基礎ベクトルの長さは,表示ができるだけ簡單になるように定められたわけである.こうしてこれらの基礎ベクトルの長さを定めたが,そのやり方には,の値がとびとびである場合に基礎ベクトルを規格化したのと似ている點がいくつかある.つまり方程式(20)が方程式(16)と同じ形で,ただ(16)の記號の代わりに函数をおいたものとなっているからである.これからの議論ではいつもこの新しい表示を用いるのであるが,書き方を節約するために印は落とすことにする.從って(20)は

と書かれることになる.
 の値がとびとびである場合と連績している場合との兩方に對し,密接に平行して理論を展開することができる.とびとびの場合には(16)を用いて

となる,ただしこの和はすべての固有値についてとる.この方程式はどの基礎ケットについても成りたっており,しかもそれらの基礎ケットは完全な組を形づくっているのであるから,

これは基礎ベクトルのたいせつな性質を表わしている方程式であって,なかなか役に立つものである.つまりその性質とは,に右からを掛けて得られる1次演算子をすべてのについて加え合わせると單位演算子に等しくなるということである.方程式(16)と(22)とは,とびとびのの場合の基礎ベクトルの基本的な性質を示している式である.
 同じようにして,が連續している場合には,(21)を用いて

これは(4)式での代わりにケット・ベクトルを用い,積分の領域として固有値の領域をとれば得られる.この式はどの基礎ケットに對しても成りたち,從って

これは(22)と同じ形で,和の代わりに積分としたものである.方程式(21)と(24)とが,が連續している場合の基礎ベクトルの基本的な性質を示している.
 方程式(22)および(24)によればどんなブラでもどんなケットでも基礎べクトルを用いて展開することができる.たとえばがとびとびである場合のケットに對しては,(22)に右からを掛けると,

が得られるが,これはをなどで展開したものとなり,展開の係數がであることを示している.そしてこの展開の係數は,の代表を形づくっている數にほかならない.同じようにして,が連續している場合には

となるが,これはをについての積分として表わしたもので,積分される函數の中に現われる係數はやはりの代表のである.(25)と(26)とに共役虛な方程式を作れば,ブラ・ベクトルを基礎ブラを用いて展開した式が得られる.
 ここに用いた數學的な方法により,が連續している場合には,どんなケットもの固有ケットの積分に展開することができるようになった.もし函數という記號を用いなければ一般のケットの展開は,§10の方程式(25)の場合のように,積分プラス和からできていることになるが,函數よればその和の代わりに積分を用いることができるのであって,ただその際積分される函數は,函數を因子として含むいくつかの項から成りたっている.たとえば固有ケットは,(23)の方程式のあとの半分で示されているように,固有ケットの積分で置きかえられる.
 を任意のブラ,を任意のケットとするとき,また(22)と(24)とをもう一度應用して,がとびとびな
が得られるし,Pが連續ならば,

が得られる.これらの方程式はととのスカラー積をそれらの代表およびによって表わしたものである.方程式(27)は二つのベクトルのスカラ一積をベクトルの座標によって表わす普通の公式にほかならないし,(28)は,が連續している場合にあてはまるように,(27)の公式に自然な修正を加えた式であって,和の代わりに積分が用いてある.
 上に調べてきた事柄を一般化して,がとびとびの固有値と連續した固有値との兩方を持つ場合にあてはめるには,格別な工夫はいらない.およびをとびとびの固有値の記號とし,およびを連續した固有値の記號とすると,(16)または(21)を一般化したものとして次の方程式の組が得られる:

これらの方程式は,基礎ベクトルがすべて直交していること,とびとびの固有値に屬する基礎ベクトルは規格化されており,連續した固有値に屬するものは(20)を導いたときと同じ規則で長さを定めてあることを表わしている.(29)から,(22)あるいは(24)を一般化した式として,

が得られる.ただし積分の領域は連續した固有値の領域である.(30)の助けをかりると直ちに,(25)または(26)を一般化した式として

が得られ,(27)または(28)を一般化した式として

が得られる.
 こんどはいくつかの互に交換するオブザーバブルが完全な交換する組を形づくっている一般の場合に移り,基礎ベクトルがそれらのオブザーバブルのすべての同時の固有ベクトルとなっているような直交する表示を作りあげよう.從って基礎ベクトルはと書かれるわけである.そこでがとびとびの固有値をもち,が連續した固有値をもっているものと想像しよう.
 いまという量を考えてみる.直交性の定理から,に對しそれぞれでない限りはこの量は零でなければならない.§10の(29)式に關して調べたことを擴張して,互に交換するいくつかのオブザーバブルの同時の固有ベクトルにあてはめ,さらに公理(30)も擴張して用いれば,その結果としてわかるように,この量をおのおののについて,という値を含む領域にわたって,重に積分したものは有限の正の數である.この數がの函數であることを表わすためにを用いて,これをとよべば,上に得られた結果を次の式で表わすことができる:

この式の右邊にはからまでのの値についてそれぞれ一つずつ函數の因子が現われている.ここで(20)を導いたときと似たようなやり方で基礎ベクトルの長さを變えてをとする.そして直交性の定理をもう一度用いると,けっきょく

が得られる.この式の右邊には,とびとびの固有値をもつに對してはそれぞれ二つの添え字のついた記號,連續した固有値をもつに對してはそれぞれ函數が現われている.これが,(16)または(21)を一般化して,完全な組の中にいくつかの互に交換するオブザーバブルがある場合の式としたものである.
 (34)から,(22)または(24)を一般化した式として,

を導きだすことができる.ただし積分は連續した固有値をもつ全部について行う重の積分であり,和はとびとびの固有値をもつ全部についてとるものとする.方程式(34)と(35)とが,いまの場合の基礎ベクトルのもつ基本的な性質を示している.(35)から直ちに(25)または(26)を一般化した式および(27)または(28)を一般化した式を書き下すことができる.
 いま考えた場合をさらに一般化して,のうちにはとびとびの固有値と連續した固有値との兩方を持つものがあるとすることもできる.その場合いろいろな方程式を修正する必要が起るが,それはただ丹念にやればよい.しかしそれらを一般の形に書き下すことはかなりわずらわしいからここでは述べないことにする.
 問題によっては,方程式(33)のをに等しくとらず,その代わりにのあるきまった函數に等しくとる方が便利なこともある.このの函數をとよべば,この場合には

となり,(35)の代わりに

が得られる.はこの表示の重みの函數とよばれる.が變數の空間の小さな體積要素に付けられる‘重み’となるからである.
 前に考えた表示はみなという重みの函數をもっていた.でない重みの函數を持ち込むのは全く便宜上のことであって,表示の持つ數學的な力がこのために少しでもふえるわけではない.重みの函數がになる表示の基礎ブラは,これに相當した重みの函數がである表示の基礎ブラと

の關係で結びつけられている.それはたやすく確かめられる通りである.重みの函數がでないような表示が役に立つ例は,次元空間の方向を決める極角と方位角とを二つのとしととる場合である.この時は(37)に立體角の要素が現われることになる.