2015年12月30日水曜日

第3版のまえがき

第3版のまえがき

 こんどもまたこの本の大部分を新しく書き直して,いろいろと改良を加えた.改良のおもなものはブラ・ベクトルおよびケット・ベクトルという記號を用いた點であるが,この記號法はわたくしが1939年以來發展させてきたものである.この記號を使うと,狀態およびオブザーバブルに對應する抽象的な量を用いた形式と,代表を用いた形式との間を一そう直接に結びつけることができるようになる――實際この二つの形式は一つの廣い理論體系の中に溶けこんでしまっている.この記號の助けをかりたために,前よりも簡單な整った形式の議論で結果を導き出せるようになった場合が,この本の中にいくつかある.

 そのほかに,内容のおもな變更として次のものがある:

 (i) 同じ種類のいくつかの粒子の體系の理論を新しい形で表わしたこと.その基礎となったのは,輻射の理論を取り扱うフォックの方法をこんどの記號に合わせたものである.こんどの取り扱い方は,この本の前の版で述べたものよりも簡單でしかも有力である.
 (ii) ウュンツュルの場の理論も含めて,量子電氣力學の理論をさらに進めたこと.電磁場と互に作用し合っている1個の電子の理論については,ここで述べたこと以上に立入ろうとすれば,現在のところ,どうしても臆測 にたよるのほかはない.

  ST. JOHN’S COLLEGE, CAMBRIDGE
    1947 年 4 月 21 日
P.A.M.D.